胸囲と成績・回収率の関係を見てみた

募集馬を選ぶとき、体高や馬体重はみんな気にするけれど、「胸囲」まで注目している人は 案外少ない気がする。胸が深い馬は肺活量が大きく、スタミナに優れるという話も聞くので、体高・母齢・誕生月に続いて、今度はこの「胸囲」を実際のデータで 確かめてみた。2017〜2025年募集(2017年85頭・2018年84頭・2019年86頭・2020年91頭・2021年91頭・2022年94頭・2023年95頭・2024年96頭・2025年93頭)に、2026年9月時点の獲得賞金・通算成績を 突き合わせた独自集計。今回は獲得賞金だけでなく、「安く仕入れて活躍できたか」を見る回収率(獲得賞金合計 ÷ 募集総額)でも合わせて見ていく。

胸囲の分布

まず母集団を見ておくと、815頭の胸囲は161〜192.5cmに分布していて、 平均は174.7cm・中央値は174.5cm。3cm刻みでヒストグラムに するとこんな感じ。

胸囲の分布(全815頭・3cm刻み)

1頭159〜1626頭162〜16533頭165〜168102頭168〜171194頭171〜174244頭174〜177124頭177〜18079頭180〜18327頭183〜1863頭186〜1891頭189〜1921頭192〜195

胸囲の分布(全815頭・3cm刻み): 159〜162 頭数 1頭、 162〜165 頭数 6頭、 165〜168 頭数 33頭、 168〜171 頭数 102頭、 171〜174 頭数 194頭、 174〜177 頭数 244頭、 177〜180 頭数 124頭、 180〜183 頭数 79頭、 183〜186 頭数 27頭、 186〜189 頭数 3頭、 189〜192 頭数 1頭、 192〜195 頭数 1頭

胸囲 × 獲得賞金合計

出走済みの685頭で、胸囲と獲得賞金合計(中央+地方、万円)を散布図にしてみた。相関係数(ピアソン)は r=0.041。体高(r=0.111)よりも ゼロに近い数字で、胸囲だけを見て成績を読むのはかなり難しいという結果になった。 獲得賞金は少数の稼ぎ頭に大きく引っ張られる歪んだ分布なので、大きさに引っ張られない 順位ベースの相関係数(スピアマン)でも確認すると r=0.094で、 ピアソンよりは高く出るものの、それでも弱い部類であることに変わりはない。獲得賞金合計が1億円を超える45頭はグラフの外に出るため省略した (後述の代表馬紹介を参照)。

胸囲 × 獲得賞金合計(出走済み・1億円未満640頭)

  • 牡
  • 牝
02.5k5k7.5k10k165170175180185190獲得賞金合計(万円)胸囲(cm)

胸囲階級別に見ると

4階級に分けて平均を取ると、一番小さい階級(32頭)が一番平均獲得賞金の 低いグループにはなっているものの、3番目の階級が一番高く、4番目(一番大きい階級)は 逆に下がるなど、階級が上がるほど単調に伸びていく並びにはなっていない。平均勝ち数も 同様の凸凹した並びで、相関係数の弱さ(r=0.041)が示す通り、 胸囲の大小からはっきりした傾向は読み取れなかった。

胸囲階級別 平均獲得賞金合計

2,587万円168cm未満全40頭・重賞馬1頭2,872万円168〜174cm未満全296頭・重賞馬9頭3,624万円174〜180cm未満全368頭・重賞馬23頭3,256万円180cm以上全111頭・重賞馬11頭

胸囲階級別 平均獲得賞金合計: 168cm未満 平均獲得賞金合計 2,587万円(平均の母数(出走済み)32頭)(全40頭・重賞馬1頭)、 168〜174cm未満 平均獲得賞金合計 2,872万円(平均の母数(出走済み)240頭)(全296頭・重賞馬9頭)、 174〜180cm未満 平均獲得賞金合計 3,624万円(平均の母数(出走済み)316頭)(全368頭・重賞馬23頭)、 180cm以上 平均獲得賞金合計 3,256万円(平均の母数(出走済み)97頭)(全111頭・重賞馬11頭)

胸囲階級別 平均勝ち数

1.72勝168cm未満1.73勝168〜174cm未満1.90勝174〜180cm未満1.76勝180cm以上

胸囲階級別 平均勝ち数: 168cm未満 平均勝ち数 1.72勝(頭数32頭)、 168〜174cm未満 平均勝ち数 1.73勝(頭数240頭)、 174〜180cm未満 平均勝ち数 1.90勝(頭数316頭)、 180cm以上 平均勝ち数 1.76勝(頭数97頭)

胸囲は「馬体重・体高の言い換え」に近い

胸囲は馬体重とr=0.787、体高ともr=0.621と、 いずれもはっきりした相関がある。つまり胸囲が大きい馬は単純に馬体重も体高も大きい馬であることが多く、 胸囲だけが独自に持っている情報はそれほど多くない。体高の記事で見た「体高もごく弱い正の相関」という結果と方向性は近く、胸囲を単体の判断材料として 重視するほどの根拠は見つからなかった。

胸囲 × 回収率(安く仕入れて稼げたか)

獲得賞金の絶対額だけでなく、「安く仕入れて活躍できたか」という観点でも見てみる。 出走済みかつ募集価格が分かっている594頭(残り91頭は募集価格の記載が確認できなかった馬)で、回収率 = 獲得賞金合計 ÷ 募集総額(一口価格 × 口数)を計算した。 100%なら「額面の獲得賞金が募集総額とちょうど同じ」という意味になる。全体の中央値は34.8%(募集総額の中央値3,200万円・ 獲得賞金合計の中央値1,096万円)で、典型的な募集馬は生涯かけて募集総額の3分の1ほどを額面の賞金で戻す、 という水準感になる。ここでの回収率は賞金の額面ベースで、管理費・維持費や引退時の売却額を 加味した実際の会員配当そのものではない(配当の計算方法はクラブ・馬ごとに複雑で、 今回のデータからは分からない)。

胸囲と回収率の相関係数(ピアソン)はr=0.071で、獲得賞金合計で見たとき (r=0.041)とほぼ同じくらい弱い。回収率も獲得賞金と同様に一部の稼ぎ頭に 大きく引っ張られる歪んだ分布(中央値は34.8%でも、最大は3435%)なので、順位ベースの相関係数(スピアマン)でも確認すると r=0.100で、こちらもピアソンより少しだけ高く出る。

胸囲階級別 回収率(中央値)

10.5%168cm未満26.9%168〜174cm未満42.9%174〜180cm未満49.0%180cm以上

胸囲階級別 回収率(中央値): 168cm未満 回収率(中央値) 10.5%(頭数28頭)、 168〜174cm未満 回収率(中央値) 26.9%(頭数202頭)、 174〜180cm未満 回収率(中央値) 42.9%(頭数277頭)、 180cm以上 回収率(中央値) 49.0%(頭数87頭)

外れ値の影響を受けにくいはずの中央値で見ても、階級が上がるほど回収率は単調に 高くなっている(10.5%→49.0%)。 実際、胸囲174cm未満と174cm以上の2群で回収率の分布を比べる検定 (Mann-WhitneyのU検定)をすると z=-2.07・p=0.039となり、 5%水準では統計的にも差が見られた。ここまでの記事で唯一、検定で有意差が出た結果になる。 ただし前段の「胸囲は馬体重・体高の言い換えに近い」(胸囲は馬体重とr=0.787・ 体高とr=0.621)を踏まえると、これは胸囲そのものが持つ独自の効果というより、 胸囲が馬体重・体高の代わりに「体が大きい馬ほどやや稼ぐ傾向」(体高記事で見たr=0.111と同じ効果)を間接的に拾っているだけの可能性が高い。胸囲を単体で見て「安くて化ける馬」を 選別できるという主張はできない。

回収率が高かった馬

参考までに、回収率が高かった上位8頭を挙げておく。安い募集価格から 重賞を勝つところまで駆け上がった馬が並ぶ。

馬名胸囲一口価格 × 口数募集総額獲得賞金合計回収率主な勝鞍
ヴェラアズール181cm4万円 × 400口1,600万円54,968万円3435%22'ジャパンC(G1)
エフフォーリア176.5cm7万円 × 400口2,800万円77,663万円2774%21'有馬記念(G1)
タスティエーラ176cm7万円 × 400口2,800万円65,897万円2353%23'日本ダービー(G1)
ナミュール176cm6.5万円 × 400口2,600万円50,963万円1960%23'マイルCS(G1)
レシステンシア179cm6.5万円 × 400口2,600万円44,952万円1729%19'阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)
ライトウォーリア175cm5万円 × 400口2,000万円31,809万円1590%24'川崎記念(G1)
ヘデントール173.5cm9万円 × 400口3,600万円51,610万円1434%25'天皇賞(春)(G1)
ドゥレッツァ174cm10万円 × 400口4,000万円47,217万円1180%23'菊花賞(G1)

胸囲の列を見ると、上位8頭は173.5〜181cmに集まっていて、 母集団の中央値(174.5cm)以上の馬が6頭を占める。 前段の階級別中央値で見た「階級が上がるほど回収率が高い」傾向とは整合するが、8頭だけでは数が少なく、この表単体で「胸囲が大きい馬の方が化けやすい」と 判断するのは早計。

実際にどんな馬がいたか

この815頭の中で実際に重賞を勝った44頭を獲得賞金の多い順に 並べておく。胸囲の列を見てもらうと分かる通り、166.5〜185cmまで ほぼ全域にわたって重賞馬が出ている。表が長くなるので、開いているのは上位10頭で、残り34頭はその下の折りたたみに入れてある。

馬名募集年誕生月体高胸囲馬体重母齢一口価格主な勝鞍通算成績獲得賞金合計回収率
エフフォーリア2019年3月158cm176.5cm489kg10歳7万円21'有馬記念(G1)11戦6勝77,663万円2774%
タスティエーラ2021年3月158cm176cm478kg7歳7万円23'日本ダービー(G1)15戦4勝65,897万円2353%
ヴェラアズール2018年1月160cm181cm483kg11歳4万円22'ジャパンC(G1)27戦6勝54,968万円3435%
サートゥルナーリア2017年3月156cm179cm484kg15歳35万円19'皐月賞(G1)10戦6勝52,358万円374%
ヘデントール2022年4月154cm173.5cm444kg9歳9万円25'天皇賞(春)(G1)11戦6勝51,610万円1434%
ナミュール2020年3月157cm176cm424kg10歳6.5万円23'マイルCS(G1)18戦5勝50,963万円1960%
ドゥレッツァ2021年4月154.5cm174cm428kg12歳10万円23'菊花賞(G1)13戦5勝47,217万円1180%
レシステンシア2018年3月153.5cm179cm482kg8歳6.5万円19'阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)18戦5勝44,952万円1729%
シックスペンス2022年4月151cm173cm429kg9歳12.5万円26'安田記念(G1)14戦6勝42,069万円841%
レイパパレ2018年1月155cm169cm420kg15歳15万円21'大阪杯(G1)15戦6勝39,314万円655%
残りの34頭も見る(獲得賞金11位以下)
馬名募集年誕生月体高胸囲馬体重母齢一口価格主な勝鞍通算成績獲得賞金合計回収率
クリソベリル2017年2月161.5cm179.5cm498kg15歳14万円19'チャンピオンズC(G1)11戦8勝37,960万円678%
ライトウォーリア2018年2月157cm175cm458kg8歳5万円24'川崎記念(G1)40戦10勝31,809万円1590%
シュヴァリエローズ2019年5月154cm166.5cm402kg17歳20万円24'京都大賞典(G2)38戦5勝29,266万円366%
カテドラル2017年2月155.5cm175.5cm452kg13歳10万円21'京成杯オータムハンデキャップ(G3)37戦4勝22,223万円556%
セラフィックコール2021年2月158cm180cm485kg8歳7.5万円24'ダイオライト記念(G2)18戦7勝21,553万円718%
ワールズエンド2022年2月152cm169.5cm426kg11歳17.5万円26'京王杯スプリングC(G2)11戦5勝19,900万円284%
マルシュロレーヌ2017年2月156.5cm180.5cm458kg15歳7.5万円21'ブリーダーズCディスタフ(G1)22戦9勝19,327万円644%
スルーセブンシーズ2019年4月156cm177cm457kg13歳4.5万円23'中山牝馬S(G3)14戦4勝19,170万円1065%
グランディア2020年3月156cm180cm426kg18歳14万円26'新潟大賞典(G3)27戦5勝17,996万円321%
パントルナイーフ2024年4月156.5cm170.5cm441kg12歳20万円25'東京スポーツ杯2歳S(G2)5戦2勝17,478万円218%
ザダル2017年2月155cm172.5cm454kg9歳4万円22'京都金杯(G3)16戦6勝16,996万円1062%
ラヴェル2021年2月161cm183cm469kg11歳7.5万円24'チャレンジC(G3)17戦3勝16,594万円553%
バーデンヴァイラー2019年3月156cm173cm448kg17歳12.5万円23'佐賀記念(G3)20戦7勝15,280万円306%
コントラチェック2017年4月155cm175.5cm449kg17歳15万円21'オーシャンS(G3)19戦5勝15,089万円251%
キラーアビリティ2020年1月155cm174cm447kg11歳25万円21'ホープフルS(G1)18戦3勝14,431万円144%
パラレルヴィジョン2020年2月156cm175cm447kg8歳12.5万円24'ダービー卿チャレンジT(G3)23戦6勝13,898万円278%
ベレヌス2018年3月156cm174cm457kg9歳4万円22'トヨタ賞中京記念(G3)32戦6勝13,882万円868%
グルーヴィット2017年4月151.5cm173cm444kg10歳9万円19'トヨタ賞中京記念(G3)25戦4勝12,919万円359%
ノーヴァレンダ2017年2月159cm185cm512kg14歳7万円18'全日本2歳優駿【国際交流】(G1)18戦6勝11,954万円427%
フェブランシェ2021年1月160.5cm183cm518kg15歳6万円25'スパーキングレディーC((G3)18戦6勝11,312万円471%
シュトラウス2022年1月160cm181.5cm522kg19歳12.5万円23'東京スポーツ杯2歳S(G2)15戦4勝10,337万円207%
モントライゼ2019年4月152cm175cm462kg10歳7.5万円20'京王杯2歳S(G2)29戦3勝9,522万円317%
クラージュゲリエ2017年2月156cm171cm460kg11歳12.5万円18'ラジオNIKKEI杯京都2歳S(G3)12戦2勝9,299万円186%
ロックターミガン2024年3月160.5cm180cm516kg11歳8万円京浜盃7戦3勝8,711万円272%
ファンダム2023年2月153cm174.5cm460kg7歳9万円25'毎日杯(G3)8戦3勝8,191万円228%
ダイアナブライト2017年1月154cm176cm453kg8歳14万円21'クイーン賞(G3)18戦5勝7,780万円139%
スキルヴィング2021年3月162cm182cm506kg10歳8.5万円23'青葉賞(G2)5戦3勝7,402万円218%
サンクテュエール2018年2月151cm175cm443kg11歳20万円20'シンザン記念(G3)16戦2勝7,083万円89%
パッシングスルー2017年3月159cm176cm462kg11歳5万円19'紫苑S(G3)13戦3勝7,052万円353%
ギリーズボール2024年5月156cm174.5cm423kg14歳12.5万円26'フィリーズレビュー(G2)4戦2勝6,078万円122%
カナルビーグル2023年2月156cm175cm453kg11歳9万円25'ユニコーンS(G3)7戦3勝5,898万円164%
フィリアプーラ2017年4月149.5cm175cm426kg16歳5万円19'フェアリーS(G3)16戦2勝5,697万円285%
サンダーストラック2024年2月158cm184cm490kg9歳20万円26'シンザン記念(G3)6戦2勝5,018万円63%
トータルクラリティ2023年1月155cm174cm436kg11歳7.5万円24'新潟2歳S(G3)10戦2勝3,858万円129%

上の表と折りたたみを合わせた44頭が、815頭のうち重賞 (中央G1〜G3・Jpn1〜3、地方重賞含む)を勝った馬のすべて。

デビュー時期の偏りではないか?

直近の募集組(2022〜2025年)は未出走が多く、それだけで見かけ上の偏りが出ないか 気になったので、レースを重ねている2017〜2021年募集(437頭)だけに 絞って相関係数を出し直した。結果は r=0.056。絞り込む前 (r=0.041)とほぼ変わらず、デビュー時期の偏りで説明できる差ではなかった。

まとめ

データについて

胸囲は募集時にクラブが公表した測尺データが元。競走成績は2026年9月時点のスナップショットで、 今後レースを重ねるたびに変わっていく。直近の募集組はまだ大半が未出走〜デビュー間もないため、 今回の集計は出走済みの685頭が中心になっている点は割り引いて見てほしい。獲得賞金は 中央(JRA)・地方(NAR)の合計で、海外レースで得た賞金は含まれていない。回収率 (獲得賞金合計 ÷ 募集総額)は募集総額に対する賞金の額面の大きさの目安であり、 管理費・維持費や引退時の売却額を加味した実際の会員配当そのものではない点にも注意してほしい。 募集口数は各馬のnetkeibaの募集情報から取得し、記載が無い馬はキャロットで最も一般的な 400口とみなした。相関係数はあくまで線形の関係の強さの目安で、 これだけで「胸囲が成績に影響しない」と断言できるわけではない。出資判断の材料というより、 あくまで趣味の分析として楽しんでもらえたら。

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