分析記事の読み方
分析記事では「順位相関」「p値」「偏相関」といった言葉が 説明なしに出てきます。統計の授業のような話は本題ではないのですが、どの数字を信じてよくて、どの数字は話半分に読むべきかが分かると 記事はぐっと読みやすくなるはずです。このページでは、記事で使っている用語を 図と実際の集計例だけで説明します。数式は出てきません。
先に3行でまとめると
- 相関係数(r)は −1〜1の「関係の強さ」。競走成績のデータでは 0.2もあれば強い方で、0.1前後は「弱い傾向」止まり。
- p値は「偶然でもこれくらい起きるか」の目安。小さいほど偶然では 説明しにくい。大きくても「差が無い」と証明されたわけではない。
- グループ分けの数字は、本当にその指標を見ているのか(性別など 別のものを見ていないか)を疑ってから読む。
平均ではなく「中央値」を使う
記事のグラフはほとんど中央値(小さい順に並べてちょうど真ん中の馬の値)で 書いています。平均ではありません。理由は、獲得賞金の分布が極端に偏っているからです。
出走した686頭の獲得賞金は、平均3,257万円に対して中央値975万円。3倍以上ちがいます。 平均以上を稼いだ馬は172頭、全体の25.1%しかいません。 最高は77,663万円、いっぽうで76頭は出走しても賞金ゼロです。 ひと握りの大物が平均を引き上げるので、「平均3,257万円」を 普通の馬の姿だと思って読むと実態から離れてしまいます。
相関係数(r)— どれくらいなら「関係がある」のか
「体高が高いほど賞金も高い」のような2つの数字が連れ立って動く度合いを、 −1から1までの1つの数字にしたものが相関係数です。1に近いほど「片方が大きいほど もう片方も大きい」、0なら無関係、マイナスなら逆向きです。
大事なのは「どれくらいなら大きいのか」は分野によって違うということです。 競走馬の成績は血統・調教・展開・相手関係など無数の要因で決まるので、 募集時の測尺ひとつで説明できる部分はごくわずかです。この記事群で出てくる相関は おおむね0.0〜0.25の範囲で、上の図でいえば真ん中よりさらに薄いくらい。 「r=0.2だから当てられる」ではなく、「たくさん集めて平均するとわずかに差が見える」という強さだと思ってください。
相関があっても原因とは限りません。「体重が重いから走る」のか、 「よく育った馬がたまたま重くもあり走りもする」のかは、この集計では区別できません。 記事では「関係がある/ない」までしか書かず、「だから重い馬を選べば勝てる」とは書きません。
順位相関(スピアマン)— 賞金にはこちらを使う
相関係数には2種類あります。記事では両方出てくるので、違いだけ押さえてください。
- ピアソンの相関係数…… 値の大きさをそのまま使う、いわゆる普通の相関係数。 「1億円」と「1,000万円」の差を10倍として扱います。
- スピアマンの順位相関…… 値を順位に置きかえてから計算します。 「1位・2位・3位……」だけを見るので、1位が1億円でも10億円でも結果は同じです。
獲得賞金はごく一部の馬が桁違いに稼ぐ形の分布なので、金額のまま計算すると 数頭の大物に結果を左右されます。そのため記事では、賞金がからむ相関は順位相関を主に載せています。
実際に差が出た例があります。馬体重の記事で、 牝馬361頭の「募集時体重 × 獲得賞金」を計算すると、 ピアソンでは r=0.102 と弱いのに、順位相関では r=0.222 と倍以上になります。 同じデータです。金額で見ると一部の大物のばらつきに埋もれてしまう関係が、 順位で見ると「小さい馬から大きい馬へ、順番に賞金も上がっていく」という形で 浮かび上がる、ということです。
p値 —「偶然でもこれくらい起きるか」の目安
2つのグループを比べて「重い方が稼いでいた」となっても、それがたまたまかもしれません。コインを10回投げて7回表が出ても、コインが歪んでいるとは限らないのと同じです。 そこで「もし本当は差が無いとしたら、これくらいの差はどれくらいの確率で起きるのか」を 計算したものがp値です。
慣習としてp < 0.05(偶然で起きる確率が5%未満)を「差がありそう」の 目安に使い、記事でもこの線で書いています。ただし注意点が2つあります。
- p値が大きくても「差が無い」と証明されたわけではありません。頭数が少なければ、本当に差があっても検出できません。記事で「差は出なかった」と書くときは、 できるだけ「差が無いと確かめられた、ではない」と添えるようにしています。
- p値は差の大きさではありません。頭数が多ければ、ごくわずかな差でも p値は小さくなります。「p<0.0001だからすごく効く」ではありません。効き目の大きさは 相関係数や次の優越確率で見ます。
記事に出てくる「Mann-Whitney(マン・ホイットニー)検定」は、2つのグループの分布を 順位で比べてこのp値を出す方法です。賞金のように分布が歪む数字を比べるのに向いています。 「2標本の比率の差の検定」は、勝ち上がり率のような割合を比べるときに使います。
優越確率 — 1頭ずつ比べたら何%勝つか
棒グラフの中央値は上がっているのに、検定してみると「差とは言えない」。 記事ではこの状態がよく出てきます。読者からすると矛盾に見えるので、 そういうときは優越確率という数字を添えています。
これは「2つのグループから1頭ずつ選んで比べたら、こちらの群の方が上回るのは何%か」です。まったく差が無ければ50%(コイン投げ)、片方が完全に上回っていれば100%。 頭数に左右されないので、効き目の大きさそのものを表します。
偏相関 —「もう一方をそろえて」見る
体高と体重のように、2つの指標が互いに連動していることがあります。 すると「体高が高い馬は稼ぐ」という関係が出ても、それが体高のおかげなのか、 単に「体高が高い馬は体重も重いから」なのかが分かりません。
そこで使うのが偏相関です。ざっくり言うと「体重が同じくらいの馬どうしの中で比べたら、体高はまだ効いているか」を計算したもの。もし体高が体重の影でしかなかったなら、体重をそろえた時点で 体高と賞金の関係はゼロに近づきます。逆に体重の方は、体高をそろえても関係が残るなら 「体重そのものが効いている」と考えられます。
記事の表で「体重 ↔ 賞金(体高をそろえて)」のように書いてあるのがこれです。 そろえる相手を変えながら並べることで、どの指標が本体で、どれがその影なのかを 見分けようとしています。
ただし偏相関でそろえられるのは、手元にある指標だけです。血統や育成環境など データに無いものの影響までは取り除けません。「体重が本体だと確定した」ではなく 「体高では説明がつかなかった」までの話として読んでください。
交絡 — 測っているつもりのものと違うものを測る
いちばん気をつけているのがこれです。ある指標で馬を並べたつもりが、実はまったく別のもので並べていたという落とし穴があります。
実例が管囲の記事です。管囲(前脚の細い部分の周囲)で 馬を並べると、太い方が明らかに稼いでいるように見えました。ところが管囲は牡と牝で大きく違う指標で、中央値は牡20.5cm・牝19.6cm。 結果として21cm以上の130頭のうち87.7%が牡でした。 牡は牝より賞金の高いレースに出ていくので、「管囲で並べる」はほとんど「性別で並べる」 ことになっていたわけです。
こういう「本当は別のものを測っていた」要因を交絡といいます。対策は単純で、牡だけ・牝だけに分けて計算し直すことです。記事で牡と牝のグラフを いちいち並べているのはこのためで、実際に、混ぜて見たときと分けて見たときで 結論が変わった記事があります。募集馬一覧で測尺を並べ替えるときも、 先に性別で絞ってから見るのがおすすめです。
分位で切る —「境界を選べる」状態を避ける
グループ分けの境界は、置き方しだいで結論が変わってしまいます。 「20cm以上か未満か」で切るか「21cm以上か」で切るかで、有意差が出たり出なかったりする。 こうなると、都合のいい境界を探して選べてしまいます。
なので記事では、多くの場面で分位を使っています。 値の大小ではなく「並べて4等分(4分位)」「3等分(3分位)」で切る方法です。 これなら選ぶ余地がなく、どの群も同じ頭数になります。グラフの棒の下に 「357〜430kg・94頭」のように実際の範囲と頭数を書いてあるのは、その群が どのあたりの馬なのかを確認できるようにするためです。
標準偏差(SD)—「0.9cmの差」が大きいのか小さいのか
cmとkgのように単位が違う指標は、そのままでは大小を比べられません。そこで標準偏差(SD)という「その指標のばらつき何個ぶんか」に換算します。 記事で「牡と牝の差が1.13SD」と書いてあるのがそれです。
とはいえ「1.13SD」と言われても実感が湧かないと思います。 なので、さっきの優越確率に翻訳した表を置いておきます。 牡と牝を1頭ずつ選んだとき、牡のほうが大きいのは何%か ―― 差がまったく無ければ50%です。
| 測尺 | 牡と牝の差 | 牡のほうが大きい確率 | 実際の差 |
|---|---|---|---|
| 管囲 | 1.13 SD | 86.1% | 0.9cm |
| 馬体重 | 0.37 SD | 61.7% | 11.0kg |
| 体高 | 0.14 SD | 57.7% | 0.5cm |
| 胸囲 | 0.00 SD | 51.2% | 0.0cm |
2017〜2025年募集の実データ。「牡のほうが大きい確率」は牡385頭・牝430頭から 1頭ずつ取り出した全組み合わせで数えたもの(同値は0.5と数える)。
管囲の1.13SDは「牡と牝がほとんど別の集団」という意味
表の一番上、管囲の差は見た目にはわずか0.9cmです。 ところが優越確率にすると86.1% ―― 牡と牝を1頭ずつ選べば、9回に1回くらいしか牝のほうが太くなりません。 平均的な牡の管囲は、牝の中では上位9%に入る太さです。 だから管囲で並べ替えると、ほぼ性別で並べたことになるわけです。
いっぽう胸囲は0.00SD・51.2%で、 ほぼコイン投げ。同じ「牡は牝より大きい」でも、どこが大きくなるかは測尺ごとに まるで違います。
記事で守っていること
最後に、書く側のルールも書いておきます。読むときの信頼度の目安にしてください。
- 本文の主張は、ページを作り直すたびに自動で検算しています。「牡では差が出ない」のような文章は、競走成績のデータを新しくしたときに数字だけが入れ替わって、文章のほうが嘘になってしまうことがあります。 そこで主張の一つひとつを計算式の形で持たせておき、データを更新して計算が合わなくなったら、 そもそもページを公開できない仕組みにしてあります。
- 「差が無い」は、その部分集合で計算し直してから書きます。全体の数字を部分集合の話に流用しません。
- 頭数が少ないときはp値を出しません。重賞勝ち馬のように数が少ない事象では 検定の前提が崩れるので、そのときは「検定に足りない」と書いて数字だけ出します。
- 都合のいい境界を選びません。境界で結論が動く指標は分位で切ります。
- 相関を並べるときはp値も並べます。頭数の違う群のrだけを見比べると、 頭数が減って揺らいだだけなのを「効果が消えた」と読み違えるためです。
それでもこれは個人が趣味で集計しているものです。出資判断の道具というより、 カタログを眺めるときの話のタネとして読んでもらえたら嬉しいです。