母がサンデー出身の募集馬は活躍しているか?
ただ、サンデー仔がキャロに来たときって走らないイメージなんだよなぁ...
募集馬を眺めているときに、私はこんなことを書いた。まったく根拠は無い。ただ何となく そういうイメージがある、というだけの話だ。
引っかかるのはこういうところだ。母が向こうのクラブ ―― サンデーレーシング、シルク レーシング、G1レーシング ―― で走って、引退して繁殖に上がった。 その仔が向こうではなくキャロットに出てくる。なぜこの馬はこっちに来たんだろうと、つい勘ぐってしまう。何か身体に不安があるのか、評価が低かったのか ―― そう思い始めると、良く見えていた馬体まで疑わしく見えてくる。
せっかく手元に過去の募集データがあるので、本当にそうなのか確かめてみた。 結論から言うと、「走らない」は言い過ぎだった。ただしまったくの思い込みでもなかった。
60頭
母が向こうのクラブ出身
サンデー・シルク・G1レーシング
43頭
集計した募集馬
2022年までに生まれた仔
97.7%
出走率
全体は93.8%
692万円
獲得賞金の中央値
全体は1,113万円
0頭
重賞を勝った馬
全体は40頭(6.4%)
「順位相関」「p値」「偏相関」といった用語は分析記事の読み方で図つきで説明しています
今年の募集にも10頭いる
まず、この話が他人事ではないことを確認しておきたい。今年(2026年)の 募集馬にも、母が向こうのクラブ(サンデーレーシング・シルクレーシング・ G1レーシング)の現役馬だった馬が10頭いる。
| No. | 募集馬 | 牡牝 | 父 | 一口 | 母 | 母の所属 | 母の戦績 | 向こうの兄姉 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ブランノワールの25 | 牡 | イクイノックス | 20万円 | ブランノワール | シルクレーシング | 23戦4勝 | 2頭 |
| 7 | トレジャーステイトの25 | 牡 | キタサンブラック | 25万円 | トレジャーステイト | シルクレーシング | 16戦5勝 | ピースオブエイト毎日杯(G3) |
| 21 | アーデルハイトの25 | 牡 | サートゥルナーリア | 14万円 | アーデルハイト | サンデーレーシング | 1戦0勝 | 9頭 |
| 30 | ゴールデンプルーフの25 | 牝 | リアルスティール | 9万円 | ゴールデンプルーフ | サンデーレーシング | 13戦2勝 | 1頭 |
| 38 | シャトンアンジュの25 | 牝 | ルーラーシップ | 5万円 | シャトンアンジュ | サンデーレーシング | 10戦0勝 | — |
| 42 | パストフォリアの25 | 牡 | リオンディーズ | 15万円 | パストフォリア | サンデーレーシング | 11戦4勝 | サブライムアンセムフィリーズレビュー(G2) |
| 62 | — | — | — | ドナウエレン | サンデーレーシング | 14戦2勝 | — | |
| 79 | ベデザンジュの25 | 牡 | ドレフォン | 10万円 | ベデザンジュ | G1レーシング | 8戦3勝 | — |
| 91 | ジュールヒートの25 | 牡 | ナダル | 25万円 | ジュールヒート | G1レーシング | 4戦0勝 | — |
| 93 | グラッブユアコートの25 | 牝 | マインドユアビスケッツ | 18万円 | グラッブユアコート | G1レーシング | 21戦4勝 | — |
馬名はこのサイトの個別ページへ、母と兄姉はnetkeibaへのリンクになっている。 「向こうの兄姉」は、同じ母からサンデーレーシング・シルクレーシング・G1レーシングで 募集された仔で、重賞を勝っている場合はレース名を出している。 打ち消し線のNo.62 ドナウエレンの25は、募集確定リストのあとで募集中止になった(このサイトの一覧にも載せていない)。
向こうで重賞を勝った兄姉がいる馬もいる
トレジャーステイトの25(兄姉にピースオブエイト・毎日杯(G3))、パストフォリアの25(兄姉にサブライムアンセム・フィリーズレビュー(G2))。血統的にはこれ以上ない裏付けがある馬たちだ。だからこそ「なぜこの仔は 向こうではなくキャロットに来たのか」と考えてしまう。
どういう馬を数えたか
この記事で見るのは母自身がサンデーレーシング・シルクレーシング・G1レーシングの現役馬だった募集馬だ。 この3つは、母を高額少口で先に募集にかけるクラブで、「先に取られた残りがキャロットに来る」 という説の構造が同じなので、まとめて「向こうのクラブ」として扱う。 過去の募集馬625頭(2022年までに生まれた仔)の母をこの基準で分けると、 該当する母は60頭で、そこから来た募集馬は43頭だった。 多くはないが、傾向を見るには足りる。
内訳はサンデーレーシング出身の母から33頭、シルクレーシング出身の母から7頭、G1レーシング出身の母から3頭。数の上ではほぼ サンデーの話で、シルク・G1レーシングは母自体がそれぞれ8頭・7頭と少ない。ただしその少数も、 出走率・獲得賞金・重賞の出方でサンデー側と食い違う動きはしていないので、以下では まとめて「向こう」として扱う。
まず、走ってはいる
いちばん確かめたかったのは出走率だ。「訳あり」が本当なら、身体が弱かったり 成長が遅れたりしてデビューにたどり着けない馬が多いはずで、そこに差が出る。
母の所属クラブ別 出走率
母の所属クラブ別 出走率: 向こうのクラブ 出走率(%) 97.7%(頭数43頭)、 キャロット 出走率(%) 93.1%(頭数303頭)、 個人馬主 出走率(%) 96.0%(頭数99頭)、 海外・その他 出走率(%) 92.4%(頭数170頭)、 他クラブ 出走率(%) 100.0%(頭数10頭)
結果は逆だった。母が向こうのクラブ出身の43頭のうち、 デビューまでたどり着いたのは42頭。出走率97.7%で、全体の93.8%を上回っている。未出走のまま終わったのは1頭だけだ。 未出走馬という珍しい出来事を43頭で切ると検定に足るサンプルにならないので 有意差がどうという話はできないが、少なくとも「回ってきた馬はデビューにたどり着けない」という形にはまったくなっていない。 勝ち上がり率も69.0%で、全体の74.9%と比べて 極端に低いわけではない。
ただし、稼いでいる額は低い
走ってはいる。問題はその先だった。
母の所属クラブ別 獲得賞金の中央値(出走した馬)
母の所属クラブ別 獲得賞金の中央値(出走した馬): 向こうのクラブ 賞金の中央値(万円) 692万(出走した頭数42頭)、 キャロット 賞金の中央値(万円) 1,349万(出走した頭数282頭)、 個人馬主 賞金の中央値(万円) 1,170万(出走した頭数95頭)、 海外・その他 賞金の中央値(万円) 906万(出走した頭数157頭)、 他クラブ 賞金の中央値(万円) 1,336万(出走した頭数10頭)
獲得賞金の中央値は692万円で、 それ以外の募集馬の1,175万円を下回る。賞金は一部の稼ぎ頭に 極端に引っ張られる分布なので、順位で比べるマン・ホイットニーの検定をかけたところ、この差は偶然とは言いにくかった(p=0.014)。
差がはっきり出るのは上のほうだ。獲得賞金3千万円以上まで たどり着いた馬の割合は、母が向こうのクラブ出身だと9.5%(4頭)。それ以外は31.3%(170頭)で、こちらも差がある(p=0.003)。
43頭から、重賞を勝った馬は1頭も出ていない
いちばん象徴的なのがこれだった。全体では625頭中40頭 (6.4%)が重賞を勝っている。同じ割合なら43頭からは3.0頭ほど出ていい計算になる。 実際は0頭だ。頭数が少ないので「たまたま0頭」も十分ありえて、 その確率を計算すると4.7%。珍しくはあるが、 これだけで断定できるほどではない。それでも、出走率は高いのに賞金と重賞では見劣りするという形は一貫している。
同じ母の兄姉と比べてみる
ここまでは「他の募集馬全体」との比較なので、母の質がそもそも違う可能性が残る。 そこでいちばんフェアな比べ方をする。同じ母から、向こうのクラブで募集された仔と、キャロットで募集された仔を並べる。母は同じなのだから、血統の地力は揃っている。あとは「どちらに行ったか」の違いだけだ。
両方に仔がいる母は21頭いた。向こうに残った仔が54頭、 キャロットに来た仔が29頭になる。棒の長さは獲得賞金で、 左右どちらの表でも同じ物差し(いちばん稼いだ30,935万円が最大)にしてある。
| 母 | 向こうで募集された仔 | キャロットに来た仔 |
|---|---|---|
| レネットグルーヴ |
|
|
| グリューネワルト |
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|
| プロミストスパーク |
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|
| コナブリュワーズ |
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| アンソロジー |
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| フレンチバレリーナ |
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| ジャッキーテースト |
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| マルケッサ |
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残り13頭の母も見る
| 母 | 向こうで募集された仔 | キャロットに来た仔 |
|---|---|---|
| スカーレットベル |
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| グルーヴィクイーン |
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| シェアザストーリー |
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| ラテアート |
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|
| ディオジェーヌ |
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| プルーフオブラヴ |
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| ライクザウインド |
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| フェリシア |
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|
| プロミネント |
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| ブリガアルタ |
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| リビングデイライツ |
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| エクレールアンジュ |
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| ソングバード |
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ここに並んだ21母はすべてサンデーレーシング出身だった。 シルクレーシング出身の母(8頭)も G1レーシング出身の母(7頭)も、 そもそも少ないうえ繁殖に上がったのが新しく、両方に「走る時間が足りた世代」の仔が 揃っている母がまだ無い。
この21母をまとめると、こうなった。
| 頭数 | 賞金の中央値 | 賞金の平均 | 勝ち上がり | 重賞 | 最高賞金 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 向こうで募集された仔 | 54頭 | 936万円 | 3,252万円 | 58.0% | 5頭 | 30,935万円 |
| キャロットに来た仔 | 29頭 | 997万円 | 1,975万円 | 67.9% | 0頭 | 10,101万円 |
面白いのはここだ。賞金の中央値には差が無い(p=0.783)。勝ち上がり率にいたっては キャロットに来た仔のほうが高い(67.9%対58.0%)。 同じ母から生まれた仔で比べる限り、真ん中あたりの成績はまったく変わらない。
にもかかわらず、重賞を勝ったのは向こうに残った仔だけだった。5頭対0頭。 平均賞金が3,252万円対1,975万円と 開くのも、最高賞金が30,935万円対10,101万円になるのも、この上振れの有無で説明がつく。
差は「平均の実力」ではなく「上振れ」に出ている
普通に走って普通に勝ち上がるところまでは、向こうに行った仔と変わらない。 変わるのは、そこから重賞級まで突き抜けられるかどうか。43頭から重賞馬が0頭だったのも、同じことを別の角度から見た結果だと言える。
兄姉が重賞を勝っている馬はどうだったか
いちばん期待したくなるのは、向こうで重賞馬が出ている母から、キャロットに回ってきた仔だろう。血統の裏付けとしては最上級で、「なぜこれが回ってきたのか」と思わず身を乗り出す。 ここでも母がキャロットの馬だった場合は除いてある。
該当する母は13頭。そこからキャロットに来た仔は20頭いた。
| 母 | 向こうで募集された兄姉 | キャロットに来た仔 |
|---|---|---|
| ライジングクロス | ||
| ライラックスアンドレース | ||
| レネットグルーヴ |
| |
| マハーバーラタ |
| |
| グリューネワルト | ||
| プロミストスパーク | ||
| マンビア | ||
| シェリール |
| |
| コナブリュワーズ | ||
| トレジャーステイト | ||
| パストフォリア | ||
| アンソロジー | ||
| グレースランド |
向こうで募集された兄姉は重賞を勝った馬だけでなく全頭を並べている。向こう側にも 走らなかった仔はいるので、重賞馬だけを抜き出すと比較にならないため。
走る時間が十分あった13頭を集計すると、出走率100.0%。 全頭がきちんとデビューしている。一方で獲得賞金の中央値は642万円、重賞を勝った馬は0頭だった。 最高でも10,101万円。 ここでも同じ形が出ている ―― 走る。ただし突き抜けない。
なお、この13母からは直近の募集でも7頭が キャロットに来ていて、まだこれから走る。結論が出るのはもう少し先だ。
この数字をどこまで信じるか
いくつか、差の原因になりそうなものを潰しておく。
- 世代の偏りではない。母が向こうのクラブ出身の仔の生まれ年は平均2019.1年、それ以外は2019.1年で ほとんど同じ。古い世代ばかりで賞金を積む時間が長かった、という話ではない。
- 価格の差でもほぼ説明できない。一口価格の中央値は7万円対8万円。やや安いが、 賞金の開き方を説明できるほどの違いではない。
- 母の年齢は関係が薄い。向こうで走ってから繁殖に上がる以上、 こうした母の仔はどうしても産次が進んでからの仔に寄る。ただし母の年齢と成績はほぼ無相関という結果が すでに出ているので、ここが主因とは考えにくい。
- 頭数は少ない。ただし向きは一貫している。43頭というのは、 重賞馬のような滅多に起きない出来事を語るには小さく、0頭という結果も4.7%の確率で偶然起こりうる。それでも全体の賞金・同じ母の中での上振れ・重賞兄姉を持つ仔、どの切り口で見ても 「活躍度合いは低め」の側に転んでいる。1つ2つなら偶然で片づけられるが、これだけ揃うと、少なくとも 「向こうと同じくらい大物が出る」と思って上乗せするのは分が悪そうだ。
まとめ
- 「走らない」は言い過ぎだった。母が向こうのクラブ出身の募集馬の 出走率は97.7%で、全体の93.8%より高い。 故障がちで表に出てこない、という形にはなっていない。
- 同じ母の兄姉と比べても、真ん中の成績は変わらない。賞金の中央値に差は無く(p=0.783)、勝ち上がり率はむしろ キャロットに来た仔のほうが高かった。
- 差が出るのは上振れだけ。43頭から重賞馬は0頭。 同じ母で比べても5頭対0頭。向こうで重賞馬が出ている母から来た13頭でも0頭だった。全体の賞金分布が有意に低い(p=0.014)のも、 この一点に集約される。
- 出資判断としてどう使うか。「母が向こうのクラブ出身だから消し」 という使い方は、少なくともこのデータからは支持されない。普通に走って普通に勝ち上がる 確率は他の馬と変わらないからだ。ただし一発大きいのを狙う目的でこの血統背景を上乗せ材料にするのは、期待しすぎかもしれない。私のイメージは半分外れていて、半分当たっていた、という結論になる。
今年の10頭が数年後にこの数字を書き換えてくれるなら、それはそれで 楽しい。募集馬一覧では母や父で絞り込めるので、気になった馬を 並べて見てみてほしい。
データについて
海外で走った母や、クラブを通さずに繁殖入りした母は「海外・その他」に含まれる。 集計対象は2022年までに生まれた仔に限っている(それより後はまだ走る時間が足りない)。 競走成績は2026年8月時点のスナップショットで、獲得賞金は中央(JRA)・地方(NAR)の合計。 海外レースの賞金は含んでいない。同じ母の兄姉のうち、向こうのクラブで募集された仔として 数えているのは、登録情報からそれと分かる馬だけだ。 検定の p 値は「差が無いのにこれくらいの偏りが偶然出る確率」の目安で、 一般的には0.05を下回ると「有意」と言う。重賞馬や未出走馬のように滅多に起きない出来事は、 この頭数では検定に足りないため、割合と偶然そうなる確率だけを示している。 出資判断の材料というより、趣味の分析として楽しんでもらえたら。